出生前診断の最前線にいる医師からの明確なメッセージはママを勇気づけます

こんにちは。BeBRAVE.Sビーブレイブエスの明正明美(みょうしょうあけみ)です。

 

出生前診断について書きます。

出生前診断の現場に長年かかわり最先端研究者でもある室月淳医師の『出生前診断の現場から 専門医が考える「命の選択」』(集英社新書、2020年2月発行)を参考にします。

自分自身の遺伝子診断については軽いかんじで受ける方もいて、話題性も高く、盛り上がっているように思います。

しかし、これが「これから生まれてくる我が子」のことになると、全く違ったものになります。

著者の室月医師は遺伝カウンセリングを行っています。

遺伝カウンセリングでは、NIPT(母体採血による胎児の染色体の病衣を調べる検査)について、生まれてくる子は誰でも先天異常などの障害をもつ可能性があり、それは個性の一側面としてとらえられ、幸か不幸かにはほとんど関連がないこと、検査対象となる染色体異常のの最新の情報、いくつもある異常のうちわかるのは3つに限られること、確定のためには羊水検査が必要なこと、検査結果の解釈について(陽性、陰性、判定留保の意味)、羊水検査についての説明を行います。

しかし、これらのことをいくらわかりやすく説明し、その大切さを強調しようとも、それだけではけっして遺伝カウンセリングにはならないと室月医師は言います。

遺伝カウンセリングは、たとえば、「障害は個性の一側面」であることを相手に理解させるのみならず、認識によってクライエントの行動変容を引き起こすところにその本質があると言います。

出生前診断は妊婦及びカップルの自己決定のため、事前準備のためというのが建前ではあるが、その本質は選択的中絶にあると室月医師は明確に指摘しています。

NIPTや羊水検査を受ける前に、カップルで徹底的に考えて話し合い、もし染色体の病気があれば、その時は残念だけどあきらめると決心した者のみがこの検査を受けるべきだろうと個人的に思うし、もし染色体の病気があっても授かった子なのだから育てていこうと思える人ははじめからこの検査は受けなくていいだろうと思っている。このように、室月医師の産科医としての考え方はとても明確です。

私はこの本を1年ほど前に購入していましたが、専門的で重いテーマのため途中で挫折していました。再び手に取り、最後まで読み通そうと決心したのは『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』を読んだからです。実際にあった事件を元にしたものです。この本では誰もが当事者として重いテーマを背負っており、安易な希望を寄せ付けない圧倒感があり、どこかに救いを求めたかったのかもしれません。

室月医師は、出生前診断の大衆化、スクリーニング化はもはやとどめようがなく、医療が経済原理で動いているかぎりそれは必至の状況であると、現実を直視したうえで、個人はどのように対処できるかといったことを真剣に提示しています。

カウンセリングの限界を知り、それでもクライエントとのコミュニケーションによって、目の前の問題を現実的に解決できる道をさがしていく、それが室月医師が自覚する産科医にとっての遺伝カウンセリングであるということです。

どんな選択であろうと、その選択の結果がどうであろうと、自分自身で決定することが大事である。その人にとってなにが幸せでなにが不幸なのかは他人には決められないのだから。自己決定はその選択の正しさを保証するわけではないが、間違いなく自分の生を生きることになる。だからこそ、クライエントの自己決定を専門家として最大限支えることが大事なのだというのです。

最前線に立つ医師が当事者として、このように明確な態度を表明してくれるのは大変心強いことです。

最終章で室月医師は、むなしい生活を情報で埋めることの空疎さについて痛烈な批判をしています。情報でわかることはせいぜい損得の問題にすぎず、損得は人生において大切ではあるが、人生はビジネスではない。選択には情報が必要だが、選択の結果を事前に知ることができたら正しい選択がほんとうにできるのか?未来を確実に知ることはできず、情報化社会における「情報」とは多様であり相対的なものである。情報量が増えれば増えるほど、それは断片化し、相対化されて全体を把握することが難しくなる。そんな情報をいくら集めても未来を見通すことなどできそうもない。

いかがでしたでしょうか?

私はこの本を読んで少しホッとしました。

室月医師は大学教授と産科医を兼任しています。

宮城県立こども病院産科

東北大学病院医学部産婦人科

プレジデントオンラインにも記事があります