雇用されている人には経営責任はありませんが、安全責任はあります。

こんにちは。BeBRAVE.Sビーブレイブエスの明正明美(みょうしょうあけみ)です。

前回、3歳の女の子がバスに置き去りにされて亡くなってしまった事件について自分の思うところを延べました。「人間は誰もがかけがえのないユニークな(唯一の)存在。経済の一要素ではない」この思いは変わりません。

今回は、では具体的にどうしたらいいのか、という点についてお話ししたいと思います。

製造業に勤務する方が執筆した、労働災害を防止する書籍を参考にしてお話します。

労働災害?労災の話とこの事件は関係ないのでは?と思われる方も多いと思いますが、私は基本の部分では全く同じであると考えています。

マニュアルやルールの形骸化が原因で事故が起きるという点では全く同じです。そして、形骸化は人間軽視による間違った、倒錯した効率主義によって生じます。

現場のリスク管理と災害未然防止のための不安全行動(リスクテイキング)の防止対策 」の著者である金塚憲彦さんは外部コンサルタントではなく、エンジニアとして実際に現場で働いていた人です。社会保険労務士などの外部コンサルタントが経営者や人事部の職員からヒアリングしても、労災の本当の原因は実のところわからないことが多いのです。現場を実際に見ない、現場の従業員から直接話をしっかり聞かない、これが原因ではあるのですが、信頼関係も築けないなかでは原因を突き止めるのは、難しいのが正直なところです。真の原因がわからないのですから、防止策も形式的なものになりがちです。

事故が起きると、犯人探しと、防止のための二重三重チェックがたいていどこの現場でも行われますが、誰かが悪者になるだけで、チェックは形骸化し、結局は再発防止ができません。

金塚さんは、「リスクテイキング」概念をあげていますが、これは「危ないことがわかっていて(不安全行動)、意図的に(わざと)やる、つまり、リスクを取ってまでやらなければならないのでやっている」というものです。ですから、防止策の効果がないのです。

例えば、保護具なしで危険物を触る、危険作業をする。危ないことはわかり切っていますが、保護具をつけていては間に合わない。免許なしで機械を動かす。危ないことはわかり切っていますが、今自分がやらないと生産が止まる、子どもを見ていないといけない時間だけど、制作(そのほか事務なども)をやる。危ないことはわかりきっているけど、時間がない。間に合わない、などです。

つまり、職場のひずみが、「不安全行動」を取らざるを得なくしているということです。

安全な行動を取るべきだとはわかっている。

保護具をつけないといけない、免許なしで機械を動かしてはいけない、子どもの見守りに専念しなければいけない…でも、その安全行動では仕事がまわらないのです。

なぜ保護具をつけている時間がないのか?なぜ免許なしで機械を動かさないと生産が止まるのか?なぜ子どもの見守りに専念すべき時間に他の仕事をしなければならないのか?

保護具の不具合、つけるのに時間がかかる、保護具をつける時間を考慮していない…

生産計画段階でのミス、稼働前の確認ミス、有資格者の配置ミス…

事務その他の仕事の時間をそもそも労働時間に入れていない、子どもの自由時間や午睡時間などを事務その他の仕事に当てている、家での宿題になっている…

事故は経験年数の浅い従業員に多い傾向はあるものの、重大事故(死亡や高度障害)は経験年数の長い、いわゆる中堅・ベテランに多いものです。

未熟なためのエラーではなく、わかったうえでやる意図的な不安全行動、つまりリスクテイキングが原因で事故が起こり、それらは職場のひずみによって起きているということです。

3歳の女の子がバスに置き去りにされた事件では、こどもを目視しない、直接確認しないことは非常に危険であることは誰もが本当はわかっていたと思うのです。思い込みが危険であることはみんなわかっていたと思うのです。でも、実際に子どもの頭数を確認するという、当り前の基本的なことをしなかった。なぜ?おそらく、業務に追われていたのだと思います。子どもの安全確認という業務以上にどんな大事な業務が?と思うかもしれません。でも日々の、毎日の仕事、家庭でのことを考えると、最優先すべき重要事項がどこかに置き去りにされ、なおざりにされていることは否定できません。

どこの現場でも、効率と非効率が一体となっています。保育現場では一人の子どもと向き合うこと、安全行動をするという当たり前のことが非効率とされ、英語・算数・運動などで外部評価を得て、多くの園児を預かることが効率のいいこととされています。どこの園も、こういった点を売りにしています。

そうはいっても経営が…どの経営者もそう言います。。。世の中全体がひずみを生じていて、傾いた状態なので、安全といった「当たり前」のことを「当たり前に」やっていては経営が成り立たない、ということになります。

リスクテイキングの原因となっている職場のひずみは一労働者がなんとかできるものではありません。

今回のバス置き去り事件は、経営者も雇用されているスタッフも、園児の安全に対しては無責任だった一方、雇用されているスタッフは本来負うべきではない経営の責任を負っていたといたと思われます。安全は労使関係なく責任を負うものですが、経営の責任は経営者が負うものです。このような本来の責任が真逆になっているのは事件を起こした園だけではなく、他の園でも他の業種・業界でも起きています。これが今の世の中のひずみだと思うのです。

自己責任という言葉が相変わらず幅を利かせていますが、経営責任こそが経営者の自己責任です。

職場のひずみが原因で起きるリスクテイキングによる事故は、安全に対する責任を放棄し、経営に対する責任を優先することで起きるのです。

雇用されている人は経営責任は取らされませんが、安全責任は取らなければならないのです。情状酌量はあっても、免責はありません。